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BUZZ GOLF 2021年9月号 発行
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BUZZ GOLFが創刊した2011年、世界に勝負をかけたプロダクトが発売された。「N・S・PRO MODUS³」、日本シャフトが誇るアスリートシャフトだ。その地位を確固たるものにしている2020年。
しかし、このシャフトをカタチにするまでには世界の洗礼があった。逆境をバウンスさせた(跳ね返した)キーマンの生の声を聞きたい。
撮影=田中 宏幸
まずはBUZZ GOLF、創刊100号おめでとうございます。「N・S・PRO MODUS³(以下モーダス3)」の正式発売と同じ年に創刊されたのですね。この記念号にて10年目を歩む「モーダス3」についてお話できるとは不思議な運命を感じます。
「モーダス3」の発足、それは2008年に時をさかのぼります。
親会社であるニッパツ(日本発条(株))から日本シャフトへ営業部長として配属になった私に課せられたのは、ゴルフ市場世界最大のアメリカ戦略。当時、まだ1割にも満たなかったシェアを拡大させることでした。
日本をはじめアジア圏では、「N・S・PRO 950GH」で圧倒的なシェアを誇っていた日本シャフトでしたが、アメリカではほぼ無名。まず、やるべきことは現地に飛び、自分の足で東奔西走して、アメリカの市場特性を知ることでした。調査会社とともに2週間かけてメーカー、販売代理店、ショップから徹底的にヒアリング。
そこでわかった明らかな課題、それは「PGAツアーをサポートしていないシャフトは認めない」ということ。そのフィールドに参画していない日本シャフトは厳しい現実に直面しました。
私たち駒ヶ根工場(長野県駒ヶ根市の研究開発拠点)の持つ最新技術や品質、フィードバックの早さは常々認められても、PGAツアーで存在感がないと、アメリカでの価値観は成り立たない。
シェアを拡大するための道は、PGAツアー進出以外になかったのです。すぐに着手したのはPGAツアーに精通するツアーレップの採用。
結果私たちはリー・オイヤーという信頼できる人間との出会いにより、着実にPGAツアーに浸透していくことができましたが、それはもう少し先の話です。
2009年にPGAツアーデビュー、約2万本ものプロトタイプを投入しましたが、見事に敗北。私たち日本発信のストロングシャフト(重量級)ではPGAツアーのニーズに応えることはできませんでした。リーからは、“ただヘビーなシャフトでは戦えない”と痛烈な檄が日本のスタッフに日々寄せられ、選手からフィードバックした理想とする性能のイメージをリクエストされました。
これまでにない難題を形にするために最先端の肉厚加工技術をフルに活用。「DP(Dual Profile=二面性)」の特性を持った全く新しいシャフトが完成に至ったのです。「DP」プロトタイプがPGAツアーでも好感触を得た結果、リーからは、「この『DP』こそが、日本シャフトにしかできない世界屈指の技術であり、いかなるスイングにも対応できる全く新しいスチールシャフトだ。これを発売しない手はない」と力説され、この熱意を受けて満を持して2010年に先行発売に至ったのが「モーダス3ツアー120」だったのです。
「モーダス3」は、「ツアー130」、「システム3ツアー125」、そして「ツアー105」が揃い、PGAツアーの使用率、そしてグローバルメーカーのOEMとともにアフターマーケットでも受注を伸ばし、今ではアメリカで2割強に至るまでシェアを伸ばして、存在価値を確固たるものにできました。
何かと定番競合モデルと比べられることが常ですが、ただ一つ「モーダス3」に替えてくれた選手たちは、“タイトディスパージョン”(散らばらない)と安定性に秀でていることを、メジャー(マスターズ、全英オープン)に代表される数々の勝利で証明してくれました。
PGAツアーでレップとして活躍した経験のあるリーとの面談時、「PGAツアーで1年10人、2年で20人、使用選手を獲得してくれ」とリクエストしたところ、「そんな甘いもんじゃないよ!」と喝を入れられました(笑)。
ただし、1年で3人、2年で10人を約束できる、という真摯な回答に、即採用を決定したのを昨日のことのように覚えています。今では恰幅がいい彼を慕い、選手たちからコミュニケーションを求めにくるほど。日本シャフトのフィードバックの早さとともにPGAツアーで信頼を得ることができました。
独自の肉厚調整加工技術「MSA(Multi Shape Adjustment)テクノロジー」で、通常とは逸脱した剛性分布を実現。極端に高い先端剛性と極端に低い中間剛性の組み合わせにより、PGAツアープレーヤーが求める操作性をパフォーマンスにできた。
12年前、ゴルフ市場の右も左もわからなかった私が、アメリカというまだ見ぬ市場を開拓できたのは、ひとえにリー・オイヤーに出会えた幸運が導いてくれたと思っています。ちなみにリーは今年で67歳になりましたが、まだまだ現役バリバリ。今でもPGAツアーからの最新鋭のフィードバックを、私たち日本のスタッフに無理難題として提案してくれています。
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